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写真を楽しむ生活

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齋藤 浩


いつかはニコン!


そうは思っていたもののタイミングを逸していまい、まともに使うこともなく40代になってしまった。仕事ではαシリーズの一眼レフ、趣味ではレンジファインダーカメラを使うことが定番化して久しい。


だいたいニコンというブランドは硬派すぎる。バイクに例えればカワサキのような存在で、「ライダーには二種類いる。カワサキ乗りか、それ以外かだ」に相当することをカメラの話で言い放たれた日にゃ、すみません、私にとってニコン様は遠い存在です。いつか機会がありましたら使わせていただきますです。とか言ってその場から逃げてしまう。


とはいえ、ある種の憧れのようなものもあるからクヤシイんだな。そんなある日、普段からなにかと世話になっている“編集長”ことS氏が「もう使わないから」ということでニコンをくださったのだ。しかも、伝説の一眼レフ『ニコンF』である。


Fといえば1959年に登場し、瞬く間にカメラの歴史を変えてしまった名機中の名機。3本のレンズとともに5月のとある日曜日にそれは送られてきたのだった。ほどよい重さ、ほどよい大きさのダンボール箱を開けてみると、そこにはプチプチでくるまれたいくつかの塊があった。


そのうちのひとつ、直方体のヤツを開封する。ちらりと銀梨地のトンガリ頭が見えた! おお、これぞ伝説の三角形、ニコンFのアイレベルファインダー!! 円柱状の塊も含め、残りのプチプチをすべてひんむく。


するとシルバーのカメラボディと24mm、50mm、105mmのレンズが現れる。上品かつ堅牢な雰囲気の、金属とガラスとレザーで構成された4つの塊が机の上に並んだのだ。心が震えるぜ。


さて、これらのお宝だが、すぐに使えるかといえば、残念ながらそんなわけでもない。いずれも使われなくなってから相当な年月が経過しているらしく、それなりに修理が必要なのだ。


ボディにレンズを装着し、ファインダーを覗いてみた。ぼやーんとしている。光学系にカビ、クモリが相当出ていると思われる。シャッターを切ってみる。低速シャッターが明らかに遅すぎる。音も変だ。


レンズをはずしてシャッターを切る。すると、ミラーアップしてないことが判明。周囲のモルトプレーン(黒いスポンジ)もぼろぼろである。


ということで、何度もお世話になっているお医者さんことTカメラサービスへ持ち込んだ。ざっと見積もっていただき、ちょっと悩んだ上、ボディと24mmと105mmのオーバーホールをお願いすることにした。


ふふふ。ついにオレもニコンオーナーか。なんだか不思議な気持ちだぜ。こころなしか口調まで硬派になってくるぜ。見ろよ、夕陽がまぶしいぜ。修理には2〜3週間かかるとのことだった。


そういえばこのところ複数の方からカメラをタダ! もしくはタダ同然! で頂いている。いずれもジャンクもしくはジャンクすれすれ状態のものが多く、また、よりにによって、そのどれもが昔憧れたカメラなのである。


これらを修理して使ったり、修理せずにごまかしつつ使っていたりするのだが、ファインダーを覗き、シャッターを切っていると、まるで今がフィルムカメラ全盛期なのではないか? と錯覚を覚えるくらいどのカメラも現役時の輝きを失わずに、いい仕事をしてくれるのだ。


また前のオーナーを知っているというのも、楽しく使える要因なのかもしれない。ちなみにニコンは40年くらい前にS氏が大学の先輩(金持ちのボンボン)から譲り受けたものだそうだ。


当時、先輩はS氏の美しい妹君に気があったらしく、なにかってーとS氏宅に遊びに来ていたらしい。そんなセイシュンの一コマも記録したであろうニコンFが、巡り巡って我が家にやってきてくれた。


これは、オレのセイシュン時代の思い出の地にも連れていかねばなるまい。てなことを日々考えているうちにあっという間に時は過ぎ、完全復活したニコンFが我が手に在る。


そして6月のある日、オレはFとともに広島県は尾道市へとやってきたのだった。


完全復活を果たしたFは毅然とした態度で黙々と仕事をこなす。ファインダーも実にクリア。ヘリコイドの動きもスムーズ。


使ってみた感想だが、まずピントリングの回転方向がいつものカメラと逆なので、少々気を使った。それさえ慣れてしまえばこっちのものだ。シャッター音も機械っぽくて気持ちいい。


フィルム交換のときは裏蓋をまるごと外すので、雨が降って来たときはちょっと苦労したが、それこそがFの醍醐味って気にさせてくれる。


基本的に露出計すら付いていない実にシンプルな機械ゆえ、使い方に戸惑うことは一切なかった。余計な機能を満載しているデジカメの、対極の存在かもしれない。


現像したところ、露出どおりに仕上がっているようだ。レンズの印象はとてもシャープで力強い。コントラストも高く、風情というより現実、情緒というより写実って感じがする。


昔の新聞を想起させる、ドキュメントな印象なのだ。考えてみれば1960年〜70年代は、どの新聞社の写真もFで撮っていたに違いないから、そんなふうに思えるのも納得がいく。


今回は雨を避けながらの町並み撮影に終始したが、荒めの高感度フィルムで動きのあるモチーフを撮影してみるのも面白いだろうなあと思うのであった。これからの人生がまたもやタノシミになってきた。


Fのいる生活は始まったばかりだ。


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雨上がりに24mmレンズで尾道水道を見下ろす。うっかりすべってコケないよう緊張して撮影したら緊張感のある描写に。


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山の手から商店街へ通じるヘアピンカーブ。高低差もスゴい。


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105mmレンズで中腹から坂を見下ろす。


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スイッチバック階段。実際、この場所に立つと目が回るような錯覚に陥る。無作為の天命反転地といった印象。


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105mmで港から山の手を見る。屏風のように家々と階段が立つ。


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向島の猫。


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向島の路面。うねるような三次曲面を描く。地面を見てるだけで時を忘れるくらい楽しめるのだが、地元の人にしてみれば当たり前の光景。


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今年はツバメを見ないなーと思っていたら、ここにはたくさんいました。


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大好きなパン屋さんの側から尾道水道を見下ろす。その向こうには向島。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

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  1. いつかはニコン! の巻 http://t.co/9gJUuXZY

  2. ハチ光 より:

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