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2015年04月01日のアーカイブ

今までに見たことのない「廃墟美」の写真集 中筋純「流転 緑の廃墟」



中筋純「流転 緑の廃墟」を読んだ(アスペクト、2015)。写真集だから、正しくは「鑑賞した」。写真集を見て感動したのは久しぶりだ。


ジャンルとしては廃墟の写真集である。今までも多くの廃墟写真を見てきた。わたしは廃墟に関心があるのだ。こわいもの見たさという気持ちもある。ちゃんとした写真作品もあれば、ネット上の怪しげな画像もある。


廃墟は造形的に面白いと思うが、見て楽しいものではない。むしろホテルや病院、娯楽施設などかつて多くの人が訪れた建物の廃墟は怖い。よくこんな危険な所に踏み込んで、無神経に写真を撮ってきたものだと思う。見ただけで厄災を招きそうな写真もあった。


「流転 緑の廃墟」は、今までに見たことのない「廃墟美」の写真集である。


中筋純「流転 緑の廃墟」

中筋純「流転 緑の廃墟」



中筋純は20年にわたり廃墟写真を撮り続けてきた、この分野の第一人者である。たぶん、わたしも彼の写真を見てきたと思う。


この度の写真集は「緑に覆われた廃墟」をテーマに、北海道の銅山、岡山県の廃校、長崎県の刑務所、三重県のダムなど、さらにチェルノブイリ、そして福島で撮影された、彼の到達点というべきものである。


廃墟が緑に包まれていく現象を廃墟ファンは「ラピュタ化」という。宮崎アニメ「天空の城ラピュタ」から来る、見捨てられた世界が自然の治癒力で再生されていくさまを表す。うまいことを言う。


写真は約120点、横長の本の見開きになる作品もあれば、見開きに縦4点が収容されていたり、白地・黒地のスペースもあったりと、リズムがある。


各作品にはノンブル(ページ番号)しかない。何の情報もない。結局、最後に「鳥取県 若松鉱山 P29」「山梨県 白沢峠 P107」といった一覧があるだけだ。潔いばかりの素っ気なさである。


各作品毎にキャプションがつけば、それなりに納得すると思うが、何もないからくいいるように見つめて、想像を逞しくするしかない。ここで何があったんだ……。


唯一、一瞬でわかったのはチェルノブイリだ。見開きで上半分が青空と雲、下半分が森林と捨てられた団地群、遠景の煙突と……。


「緑は人の営みや記憶には残酷なまでに無関心のようだ。そんな現場に身を置くと文明の挫折という我々側の視点に立った悲壮感に支配されてしまうものだが、覆い尽くす緑は人間の非力さを嘲笑することもなく、ただただやさしく輝き続ける」(あとがき)。


中筋純は廃墟ではとても豊穣で柔和な時間の中にいたという。今まで廃墟は「死」だと思ってきたが、廃墟は「生」でもあった。植物の、緑の。


まさか廃墟写真に癒やされるとは思ってもみなかった。水平・垂直がビシッと決まった廃墟写真はとても気持ちがいい。もちろん、きれいだけどやっぱり怖い写真も含まれるのであった……。
                               (写真を楽しむ生活・柴田)


中筋 純「流転 緑の廃墟」アスペクト
< http://www.aspect.jp/isbn/?k=978-4-7572-2382-0 >


仕様:B5判 128ページ オールカラー
定価:2,300円+税 発売日:2015年3月20日
発行:株式会社アスペクト


岡山県 竜山鉱山

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静岡県 峰の沢鉱山

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兵庫県 自動車教習所跡

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