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カテゴリ ‘わが逃走/齋藤浩’ のアーカイブ

齋藤 浩


さて今回は『冬の尾道』最終回、素敵な物件について語ります。あくまでもオレ基準の素敵な物件です。念の為。


オバQ
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電気屋さんの前にて。なんと2010年まで現役だったのだが、閉店に伴い姿を消していた。もう会えないかと思っていたら、その店舗が観光案内所的な空間に変身しており、オバQも復活。


さすがにもう動かないらしいが、商店街にこういった記号が存在するだけでみんなが幸せになれる。オバケの国なんかに帰らずに、これからもここにいておくれ、Qちゃん。


ヒーローとフラフープ
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こころのふるさとたる所以である。ここは昭和だ! 尾道にはいつ行っても故郷に帰ったような安心感を覚えるのだが、今回もウルトラマンエースがかっこよく迎えてくれた。


現役の商店街ほどその地の文化を肌で感じられる場所はない。「商業施設を作ってやるからここに住め」という考え方に基づいた町は、住民の高齢化とともに破綻してゆく。


日本全国イオン化している中、「人が住みやすいと、良い店も増えてゆく」という自然な流れを意識することこそ、町の繁栄につながるんじゃないかと思う今日この頃である。


歩幅
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美しい平面に肉球の跡をつけるのはさぞや快感であろう。犬猫の気持ちはわからんが、この行為だけはわかる! オレもやってみてえ。


雪が降ると誰も歩いてないところを歩きたくなるものだが、その心理の究極形がこれだ! しかし人の体重は重すぎるので、ここまでほほえましいレリーフは作れないだろう。


自転車
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今回、尾道をモノクロフィルムで撮影して「尾道は陰影の町である」と断定したオレである。朝日があたって一日が始まり、夕陽があたって一日が終わる。


当たり前のことなのだが、一日中高層建築の影に暮らしていると、どっちが東でどっちが西なのか、なんてことは意識しないとわからなくなってしまう。しかし、ここ尾道では常にそれを感じることができるのだ。この当たり前こそ最高の贅沢と言えましょう。


すべりどめ
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尾道は坂の町である。水はけの工夫と同じように、滑り止めの工夫は、生活していく上での必然から生まれる。そこに生活者の美意識が加わるとこんなにも素敵なデザインが誕生する。きれいだなあ、どんな人が作ったんだろう。と思っていたら、すみっこにサインがあった。
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道の字
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幼稚園の運動場の壁には風抜き穴があって、そこには鉄でできた素敵なタイポグラフィが埋め込まれている。使われ方や素材を考えた上での創意工夫が素晴らしい。写真は全8文字の内のひとつ。当然、尾道の「道」です。ひょっとしたら全国には、まだこんな文字がたくさん残ってるかもしれない。それを探して記録するってのもライフワークとして楽しそうだ。


新聞受
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郵便受けほどメジャーでなく、牛乳受けほどかわいくない存在ではあるが、新聞受けも素敵だ。この絶妙な直線と曲線のコンビネーションを見よ!


展開図がすぐに浮かぶほどつくりはシンプルだが、質素な中にも華を感じさせようとする作り手の工夫を感じる。魔法瓶の花柄にはヘキエキするが、こういった静かな思想は好ましく思えるのであった。


洗面台
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使われなくなってどれくらい経つのであろうか。ここ尾道では、こういったものたちを度々見かける。ワビサビを感じる反面、空き家が増えて取り壊されて、という流れを背後に感じるのもまた事実。


港の建築
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港のまわりには、煉瓦づくりの倉庫や海運会社の建物など貴重な近代建築が残る。生活者のことを思えば致し方なしだが、絵的には背後のマンションさえなければなーと思うのだった。


山の手と違い、平地は区画整理も容易なためか、失われてゆく風景が多い。全国的に言えることだが、おじいちゃんと孫が同じ地に住みながらも同じ風景を共有できないことに対し、我々はもっと危機感を持つべきではなかろうか。


以上、3回連続でお送りした『冬の尾道』いかがでしたか。書いてる本人はスゲー楽しかったのですが、読んでる方の中にはクドイ! と思われた方も少なくないと思われます。という訳で、近いうちに『春の尾道2012』を発表予定。乞うご期待。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

齋藤 浩


こんにちは。わが逃走です。今日も前回にひきつづき、尾道について語ります。今回は私の個人的美意識、主観、えこひいきにて選出した美階段の話に特化しました。


とにかくここ“坂の町”尾道には、葉脈のように広がる路地とともに、無数の階段が存在しています。車が入ることを前提としていない道が多く、人がすれ違うときにはどちらかが端に寄って道をゆずらなければならないほどせまい路地もこの町の魅力です。つまり、人間サイズに設計されている町なのです。


そんな町の、人のために人の手によって作られた階段たちはどれも美しく、作り手の魂を感じられる魅力的なものがたくさんあります。機能美と彫刻的な存在感の両立とでも言ったらいいのか…。一段ずつ高さも幅も違ったり、どことなく傾いていたりするけれど個性的だったり、ありえないくらい急だったりなどなど。


それでは…クラスの女の子全員が魅力的で、誰にちょっかい出すか本気で悩む童貞少年のような心境でチョイスした超個人的趣味全開、魅惑の階段ワールドへご案内いたします!!


1◎夕陽のあたる階段
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この階段には感動した。まさに芸術的造形。まず道路から3段上ったところで二手に別れる。右の階段は民家へと続き、左はほとんど直進のように見せかけて、イレギュラーな動きをするのだ。
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3段目で向きが90度回転するようにも見えるし、一部分のみ見れば、道路からのリズムのまま急激に幅が狭まって5段目まで続いているようにも見える。とにかく4段目・5段目に相当するであろう部分で、段の幅も奥行きも高さもバラバラになりそれ以降はせまい幅のまま高台へと続いてゆく。


頂上から階段全体を見下ろす。
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件の部分を見下ろす。
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件の部分を見上げる。
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信仰心すら感じさせる造形。古代遺跡のようである。


2◎魅惑的な曲線階段ふたつ


あまりにも美しい階段だらけで思わずコーフンしてしまい、位置関係を忘れてしまった。いずれも1の階段のすぐ近所にて発見。斜陽の影響で段の美しさが強調される。しかも西に向かってカーブしているのだからなおさらである。
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手作り感覚あふれる手すりの造形も秀逸。私道だったか公道だったかも記憶にないのだが、このような美しい階段を通って家に帰れるのであれば幸せこの上なしである。


おそらく踏み面の形状、面積がすべて違う階段。
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周囲の植物と手すりの影が階段に落ちる頃は立体感が一層強調され、より美しく感じられる。


3◎三角からはじまる階段


もう、用がなくとも上り下りしてみたくなる、そんな美しい階段である。見てくれ! このキュートな三角の切れ込みを! 今思えば、下から見上げた姿も撮影しておくべきだった。
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とにかくこの構造美に舞い上がってしまい、目に焼き付けるので手一杯、思うようにシャッターが切れない。


4◎瓦屋根の家へと続く階段


借景の逆ですね。美しい階段を風景に貸して、この町をより魅力的に見せている。
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小川が庭を横切っていることと同じくらい、階段を下りて玄関へ通ずるってのは羨ましい。この場合の階段はニュータウンなんかにある既製品的なものでなく、勾配に暮らす必然から生まれた階段をさす。


この階段の魅力を鉄分多めのヒトに語るときは、「工場専用線の面白さと似ているよね」と言おう。


5◎キレのあるS字階段


柔らかい造形の直線階段から、エッジのきいたシャープな曲線階段への流れが絶妙。
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写真はちょうど太陽が雲に入ってしまったときのものだが、夕陽があたったこの階段は、より造形的魅力を強調してくれることだろう。とはいえ手前のやわらか直線階段との対比あってこその美。


6◎扇型階段


扇型階段といえば文京区大塚5丁目が有名だが、ここもかなりスゴイ。海を背に国道を越えたと同時に山陽本線をくぐり、目の前がこの階段となる。
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そのまままっすぐ上れば浄土寺、右に曲がれば海龍寺への路地、左はなぜか行き止まり。その昔はここに住宅でもあったのだろうか。それにしても、見る者に設計者のインテリジェンスを感じさせる見事な造形美である。


さて、光が変わると風景も異なる表情を見せる。この階段は何度も訪れているのだが、いつも日没間近の時間帯になってしまうので、次回訪問の際は朝イチに来てみようかと画策している。


7◎千光寺から西の方へ少し下ったあたりの階段


よい路地である。いわゆる観光コースとはほんの少しずれたところにある美しい階段道だ。尾道水道を眼前に眺めながら、クランク状に進むわずか数10メートルの中に絵になる風景のどれほど多いことか!
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8◎宝土寺近くのメジャーな階段


観光地図に沿って歩けば必ず通る、有名な階段。前にも紹介したけど、坂の町において隣家の屋根は足元にある。町の構造が見える楽しい階段。
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9◎カーブの内側の風流な階段


ここも有名な物件。映画『転校生』のオープニングシーンにも登
場している。
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この階段の美しさは当時中1だった私の心を鷲掴みにし、「いつかは尾道に行ってみたい!」と思わせたのであった。階段自体の美しさは当時のままではあるが、上った先に人の住む気配はなかったようだ。
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行政による区画整理の魔手からは逃れているが、少子高齢化が要因と思われる街並の変化がゆるやかに進む。


10◎ほとんど崖と言っても過言ではない階段


手すりがなければ崖と言われても異論なかろう。曲がりくねる路地を通って初めてここに出たときは、「ここホントに道なの?」って感じだった。
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地元のおばあちゃんが元気に上ってきて「こんにちはー」と挨拶してくれたので、ああ、通っていいんだと納得した記憶がある。一応こう見えてエッジのゆるやかな階段なのだが、写真は全光になってしまったので段差がわかりにくい。次回はここもより階段らしく撮影したいと思うのだった。


11◎究極の二重階段


尾道駅近く、周囲は徐々に暗くなってゆく。フィルムもISO100だとそろそろ手ブレが心配かなーという時刻。


ふと商店街の脇を見ると、細い路地から一気に続く階段道が!
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一気に頂上まで駆け上がる。均整のとれた美しい階段。
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あれ? ちょっと待てよ。なにか重要なものを見落とした気が…。これだ!
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この階段、中心を境に左右で角度がかわっているのだ。下から見て左側の傾斜がきつくなり住宅の入口へとつながっている。上から見下ろすとこんな感じだ。
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両階段の接点付近には、かつて構造物があったらしく緩やかな側に削られたような跡があり、これが遠くから見るともう一方の階段が落とした影のようにも見える。
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この直後日没となり、この日の階段撮影はここまで。建物の影の影響もあり、絞りは解放付近での撮影となった。そんな訳で、多少のブレやボケはお許しください。こんど行くときは、午前中の光で撮ってみたいところ。


という訳で、美しい階段をご紹介しました。尾道には名もない美階段が無数に存在しており、それらを学術的に整理し、まとめるのは至難の業でありましょう。なので私はやりません。


しかし、学術的には無理でも、感覚的にならできそうな気がしています。このすばらしい構造美を理解してくださる人達(と自分)のためにこれからも尾道の階段の写真は撮り続けようと思っています。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poographics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

齋藤 浩


もう何度も来ているけど、何度来ても良い。私の思う美が凝縮された町である。その美とは、対比の美だ。


海と山、光と影、生と死、さまざまな相対する関係のモノゴトが絶妙なコントラストで共存する。


狭い路地と坂の町は歩くたびに新しい発見があり、歩くだけで新しい気持ちになれるのだ。


昨年はあんなに暇だったのに、今年は異常な忙しさである。正月も結局3日から仕事を始めたわけだが、ほんの少しだけ、エアポケットのように時間ができた。この時間を使わずしてどうする?


ということで、エイヤっと尾道まで行ってきました。前回からおよそ一年ぶりになる。せめて年に三回くらいは行きたい。できれば毎月通いたい。


私にとって尾道とは“きっかけの町”とでも言ったらいいのかなあ、気づかなかった美しさを発見できるのはもちろん、ここに来ると新しいアイデアが溢れてきて、作りたいものがどんどん出てくるのだ。それすなわち充実感の源ともいえる。なんつーかこう、漲ってくるのである。


今回は一泊二日の旅だったけど、その間中ずっと歩いていた。尾道で歩くということは、急な階段や坂道をひたすら上ったり下りたりする、という意味に等しい。


運動不足の私にしてみればけっこうキツいはずなのだが、一歩進むたび劇的に変わってゆく風景の中に身を置ける喜びの方がはるかに大きいので、疲れはまったく感じなかった。


ここ数年の「尾道へ行く」は、私にとって「たのしく写真を撮る」と同義語でもある。訪れる度、自分に対して何らかのテーマを課すのだが、今回の撮影テーマは「ライカ×モノクロ!」。


とにかくライカで尾道を撮るのは夢だったし、久々にモノクロ脳(=風景を色彩ではなく陰影で見る)でこの地を見てみたかったというのもある。そして後から色を想像することで、より印象に残る絵が得られるのではないか? なんて思うのだった。


そもそも、仕上がりをイメージせずにカメラ任せで撮影した後、カラー写真をモノクロ変換するのと、はじめからモノクロ脳でシャッターを切るのとでは潔さが違う。それが絵に表れるのは当然といえば当然といえよう。


今回の機材はライカM3とレンズ三本(ズマリット50mmF1.5、ズマロン35mmF3.5、エルマリート90mmF2.8)。いずれも1950年代の製品である。使用フィルムはネオパン100ACROSとトライX。フィルム現像はラボに依頼し、ネガをカラーモードでスキャンした後、SILKYPIXでデジタル現像している。


尾道水道に沿った海っぺりの商店街から山陽本線を越えると、急激に地面がせり上がってゆく。多くの寺社と住宅が密集するこの山の手地区は被写体の宝庫である。
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何の変哲もないブロック塀であるが、等間隔にあけられた穴と対になる関係で塩ビ管が。きっと意味のある構造なんだろうけど、どこかミニマルアート。
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猫。行く先々で出会う。
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絶妙な曲面をつくりだす煉瓦と石積み。学校と学校の間の路地なのだが、独特のフシギ感があった。
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尾道のY字路は、狭くそして急だ。
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坂と坂の間の小さな階段。その場所の必要性から生まれたオブジェクトである。全国的に既製品的街並が増殖する中、このようなオーダーメイドの構造物の美しさに出会える幸せ! まさに詠み人知らずのデザイン。おばあちゃんがゆっくりと上ってゆく姿が印象的だった。
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路地の向こうに陽を反射させる海。
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海にも屋根瓦にも線路にも石垣にも、等しく陽はあたる。
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うねりながら続く路地のまわりには、微妙に歪みつつ西日を反射する屋根瓦、わずかに崩れた土塀、なつかしい牛乳瓶受け、そして振り返ると瀬戸内の海と島々。


何度来ても、知らない道が増えてゆく。この巨大な生き物の体内に迷い込んだような不思議な感覚を、多くの人に知ってもらいたいと思うのでした。(つづく)


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

齋藤 浩


今年は念願のライカも手に入れたことだし、物欲から遠ざかり真面目に生きようと思っていたにもかかわらず、某中古カメラ店の年末恒例赤札市を覗いてしまった。


で、ある商品に目が釘付けになったのだ。美品クラス、箱も取り説も付属品もすべて揃った素晴らしい状態のCONTAX TVSがなんと8,000円。高級コンパクトの代名詞的存在であるT2をベースにズームレンズを組み込んだコンタックスの意欲作、当時17万円もした高嶺の花的存在が8,000円。


お店の人曰く「メーカーでの修理受付が終了したため、突然安くなった」とのこと。とはいえ、そうそう壊れるようなモノでもなかろう。モノは中古という扱いではあるが、新品価格から16万2000円引きというのは好ましい。95.3%off。すなわち9割5分3厘引き。これはお買い得といえよう。


スーパーカーに例えれば、2,500万円のフェラーリが117万5,000円で買えることになる。んー、えーと、プラモデルに例えると、1/60スケールのパーフェクトグレードガンダム(1万2,000円)が564円。うお、これは安い! やはりもう、これは買うしかないか…。


てことは、これを300円のガンダムに置き換えると、一個14.1円。まあ確かに安いが、これはこれで微妙でもある。定価でも20個以上買える計算ではあるが、300円くらいポーンと出せるオレにとって、ガンダムが15円だからといって物欲は刺激されない。


では、高い『資生堂パーラー』の高いカレー2,940円が138円だったら? 大変だ! ザギンの高級な店がビンボー人で埋め尽くされてしまう!


ということは、この価格は事件である! 暴動がおきても不思議じゃない。このパニックを未然に防ぐには、もうオレが今ここでCONTAX TVSを買うしかないのだ。この間約2分。


結局購入したのだが、とはいえこのカメラが必要かといえば決して必要なものではない。必要ないものを買うことそれ即ち無駄遣いなのである。ああ、無駄遣いすると気持ちがいいなあ!


で、早速撮ってみることにした。このCONTAX TVSに搭載されているズームレンズ『カールツァイスT*バリオゾナー』は妥協のない設計で有名だが、解放F値が3.5〜6.5と暗い。ここはやはりISO400のポジで、と思って買いに行くと、ない。ないって訳じゃないのだが、気がつくとほとんどのISO400のポジフィルムが生産中止となってしまい、あったのは二種類だけ。しかも高い!


5本で6,000円近い値段である。あと2,000円出せばこのカメラが買えるぞ! いつもISO100ばかり使っていたせいか、400のポジがここまで絶滅に近づいていたとは知らなかった。まさに驚愕したのであった。


とはいえまあ、あるだけマシってやつですね。いくらカメラがあってもフィルムが消滅したら無意味の極みです。で、結局買わずに備蓄していたISO100のポジで撮ってみた。


んでもって、やはり感じたことは「暗いレンズだー」。なのである。つまり、屋外スナップの場合、晴れの日じゃないと(とくに望遠側で)ブレるのだ。このカメラは小さくてどこにでも持って行けるのがウリなので、となるとやはり400を常用とすることが最善策でございましょう。


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信号
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ビル
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落ち葉
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こうして見てみると、濃厚で趣のあるシャープな絵が得られる良いレンズと言えましょう。以上、今回も無駄遣い自慢でした。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

齋藤 浩


前にも何度か尾道の話を書いたが、また書くことにする。


私は自分の生まれた場所や育ったところにはこれといって執着がない。そのかわり、なのかどうなのか…、この広島県尾道市というところには並々ならぬ思い入れがあるのだ。


あえて恥ずかしい言葉で表現するのであれば、心のふるさととでも申しましょうか。この町には「オレの好きな曲がり角」や「オレの好きな電柱」、そして「オレの好きな階段」がたくさんあるのだ。


しかもどれもが飾らずに美しく、ここに住む人たちの暮らしと密接な関係にある。同じ坂道でも、朝と夕方ではまるで表情が違う。同じ路地でも、行きと帰りとでは別の場所のような錯覚を覚える。あくまでも普通の暮らしの中での風景がこんなにも絵になってしまう町を、私は他に知らない。


住みたいと思わなくもないけど、住む資格はまだない。なので、足しげく通って尾道の素晴らしさを少しでも多くの人に知ってもらおうと思う今日この頃なのだ。この『足しげく通うこと』を、私は里帰りと呼称する。


年に何度か里帰りをしたいのだが、「ただなんとなく」では周囲が納得してくれるはずもない。正当な理由もなくふらりといなくなることは、家族やスタッフからの信用に傷がつく。まあすでに傷はけっこうある訳だが、これ以上増やしたくない。さて、どうしたものか…。


で、思いついたのが、「理由なんて作ればいいじゃん!」。という訳で、いままで撮った尾道の写真をまとめて個展を開催します。場所及び日時未定。で、その写真を使って観光ポスターを作りませんか? と尾道にプレゼンに行き、めでたく採用されたとして、で、それがADC賞かなんかとっちゃったら最高ー! と妄想は膨らむ。


つまり、『個展及び自主プレのための撮影』ってことだ。あ、なんかちゃんとした理由っぽいじゃん。


と安心な僕らは旅に出ようぜとばかり1月某日朝、のぞみ17号にて尾道へと向かったのであった。途中雪のため10分遅れて福山に到着。在来線に乗り換えたら進行方向左側の窓際を確保する。東尾道駅を出て造船所のクレーンが見えてくると、もはや身も心も帰郷モードだ。


大きなカーブに沿って遠くに見えていたクレーンが徐々に近づいてくる。進水式前の巨大な貨物船の横をかすめ、煉瓦造りの変電所を抜けたところで海!という絶妙な演出。まるで映画だ。尾道大橋を越え、瓦屋根の家並みが見えてくると列車はゆっくりと減速し、尾道駅へ到着する。8ヶ月ぶりだ。懐かしいなあ。


荷物をホテルに預け、身軽になったところで尾道ラーメンを食す。あったまったところで撮影開始だ。今回の撮影で自分に課した条件は、『ツァイスで撮ってフィルムに残す』だ。


2年前のカールツァイスレンズとの衝撃的な出会い以来、重度のツァイス患者となってしまった私だが、実はまだ一度もツァイスレンズを通して尾道を記録していない。また、レンジファインダーカメラでのフィルム撮影もしていない。最近やっと納得のいく、フィルムとスキャニングとPC上での現像処理の流れが見えてきたので、この度晴れて趣味全開モードでの撮影がかなった訳です。


この日のカメラはツァイス イコン。ライカMマウント互換のZMマウントを採用した究極の趣味カメラだ。レンズは21mmと35mm、50mm。天気は曇り…というか、この白くてふわふわした粉はひょとして雪ですか?? 寒さは熱い郷土愛でなんとかなる! 天気もきっと晴れてくるはずだ! そんなことを思いつつ、坂と階段の路地が待つ山の手へと向かったのだった。


階段
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ここは何度も撮影してるんだけど、今回もやはり撮ってしまった。美しく、歩きがいのある良い階段だ。ツァイスで撮ると立体感がより強調され、石段を踏んだときの感触や、死角になってる塀の向こう側も見えてしまうような気がする私はやはり重度のツァイス病か。


さらに路地の向こうにも階段。
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とにかく一歩進むごとに景色が変わる。しかもドラマチックに。以前彫刻の先生に「立体物は4方向から見たうち、少なくとも3方向から見て面白くなければいかん」と言われたことがあったが、ここ尾道は人が入り込めるサイズの巨大な彫刻なのではないかと思わせるほどの“無作為の美”がそこにある。


ネコのある風景
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尾道の猫は旨い魚を食ってよく運動しているから健康的だ。しかしこれは一輪車の方のネコである。さりげなく立てかけてあるだけなのに、なんとも風流に感じるのは郷土愛故か。これで陽がさしてきたら、グレイのバックと鮮やかな青とのコントラストが明快になり、また違った表情を見せてくれるに違いない。


塀と屋根
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ここ尾道では急坂に貼り付くようにして家が建ち並んでいるため、一階の高さに隣の家の屋根がある。決して作為では生まれ得ないこの面構成! もはや芸術の域である。


塀と消火器の箱
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この壁だって、わざとこんな色彩に仕上げたわけでは決してなのに、こうして切り取るとリズミカルな抽象画になってしまう。経年芸術とでも言おうか。剥がれ落ちたであろう「消火器」のラベルのあった部分だけが彩度が高いが、そこがまた絶妙なアクセントとなっている。


墓石地平線
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青空が出てきた。ふと振り返ると瓦屋根の向こうはお墓である。尾道のいいところは家と寺と墓地が隣り合っている点。こうしていても、おじいちゃんやおばあちゃんが見守ってくれているような気がする。死をタブーとして見えなくする傾向は、死への恐怖を助長する。日常と死が共存しているここ尾道では、お墓はぜんぜんコワくないのだ。



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塀と屋根が直線的に交わって突き放した構成になると思うと、有機的なドロバチの巣(?)が抑えに入る。こういうことに気づけるような、ゆったりした日常がいい。



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松の内も過ぎようとしているのに、蝉の抜け殻が! 生と死とか、時間の流れとか、いろいろと考えてしまう。さすが時をかける町、尾道。


細道
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一見して道とは気づかない道が、尾道にはたくさんある。とりあえず行ってみると、意外な景色に繋がったりする。当然すれ違いなんかできないから、向こうから人が来た場合、どちらかが戻って道をゆずることになる。こういったちょっとしたコミュニケーションが旅の思い出として心に残るのだ。


紅白
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細道を行くと階段があり、上っていくと学問の神様が。お正月仕様の紅白の幕がことのほか鮮やかだった。


階段
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実はここ、あの有名日本映画の名シーンの撮影地なのだ。あの男女が入れ替わってしまった階段も、視点を変えるとこうなる。


眺め
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神社からの眺望。以前ほどではないとはいえ、まだまだ瓦屋根の街並といえよう。遠くに山陽本線、その先が海。旅はまだ始まったばかりだ。


などと12点も写真を紹介してしまった。撮影はまだまだ続くので、この話もまだまだ続く。文句が来ない限り、しばらくは尾道ネタで引っ張るかもしれないが、ここはひとつ、好きなことを書かせていだだくことにする。それではみなさん、次回またお会いしましょう。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

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