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写真を楽しむ生活

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津田淳子


なんだか毎日、ジメジメムシムシ。不快な天候が続きますね。通勤や外出時の不快さをちょっとでも軽減しようと、「今、熱帯雨林に旅行に来てるんだ」とか「西表島を縦断しているんだ」とか、熱帯や亜熱帯地域へ旅している想像をしながら歩いているんですが、いやぁ、そんなことしても、不快なものは不快ですね(苦笑)。


さて、先月上旬、そんなジメジメムシムシとは無縁の地、グリーンランドに行ってきました。


グリーンランドというと、みんな「それどこ? 何しにいくの?」と怪訝な顔をされました。グリーンランドにすごい印刷工場があるわけでもなく、紙をつくっているわけでもなし。というわけで、仕事ではありません。まったくの道楽旅行です。


と書いても「?」と思われますよね。こちらでは初めて掲載していただきます、編集者の津田淳子と申します。私はデザイン、印刷、紙、加工などにめっぽう興味があり、今は、グラフィック社という小さな専門出版社で、デザイン、印刷、紙、加工に関連する書籍をつくる仕事をしています。


そして、それと同じくらい好きなことに「島を旅する」ということがあります。日本国内の島に行くことが多いのですが、年に一度は海外の島へ行くことにしています。


そんな島好きの私にとって、いつか行ってみたいと思っていたのが、世界最大の島「グリーンランド」。グリーンランドより小さい陸地は、全部「島」なんですよ。知ってました?


グリーンランドへは、日本からの直行便はなく、まずヨーロッパのどこかの都市へ飛び、そこからデンマークのコペンハーゲンへ。そしてそこからグリーンランドのカンガルサックという、以前米軍基地があった、グリーンランドのちょっとだけ内陸部に降り立ちます。私はオランダのアムステルダム経由で行きました。


グリーンランドへは、グリーンランド航空という航空会社しか就航していないので、必ずこの飛行機に乗ります。コペンハーゲンからもそうだし、グリーンランド国内も必ずこの飛行機。


グリーンランド航空の飛行機、コペンハーゲンとの行き来は100人超の中型機で、グリーンランド国内は、国内空港の滑走路の長さから小型のプロペラ機が就航しているんですが、そのどれも、機体は真っ赤。飛行機はわりと白が主体になった機体が多い中、この赤い飛行機は見た目にもすごくかわいくてステキなんですが、そんな華飾の意味だけで赤にしてるわけじゃないそうなんです。では、どうしてかわかりますか?




答えの前に、グリーンランドのことをちょっとご説明します。グリーンランドは日本列島の6倍くらい大きな面積を持った島で、その8割以上が万年雪とスノーキャップ(氷床)と呼ばれる氷河の塊で覆われています。今は夏なので、島の沿岸部は雪が解け、岩や砂地、湿地などの陸部が見えていますが、短い夏を終えると、そこもすべて雪で覆われてしまいます。


スノーキャップ



スノーキャップが崩れてフィヨルドを通じて海に流れ出た氷山。これで高さ100mくらい



陸地からも海へ流れ出た氷山は見えますが、船で海へでると、そこは見たことがない世界。首を90度後ろに反らして見上げる、高い氷山がこれでもか、これでもかと迫ってきて、その上下には、澄んだ空気のせいで、非常に濃いブルーが美しい空と海が。


たっくさんの氷山が見えますが、大きく分けると2つのタイプにわかれています。それがこちらの2種類。




最初の方の滑らかな氷山は、スノーキャップが崩れて流れ出たままの状態。後者のちょっとイガイガした感じの氷山は、氷山が崩れたときなどにその反動で、氷山の天地がひっくり返ってしまったもの。つまり、元は海の中に沈んでいた部分がいまは空に向いているというわけです。


これらの氷山は低く見えても数10メートル、高いものだと100メートルにもなる巨大なもの。それがひっくり返ってしまうなんて、すごいですよねぇ。私も運がいいことに、かなり大きめな氷河の崩落を見ることができました。ムービーもバッチリとって、今は会う人ごとに自慢しています(笑)。


ちなみにそんな雪や氷山だらけのこの島がなぜ「グリーンランド」なんていう、緑豊かな大地みたいな名前かというと、西暦982年ごろ、ヨーロッパ人として初めてグリーンランドに入植した、通称「赤毛のエイリーク」という人物がいて、エイリークはそれ以前に「アイスランド」にも上陸し、その際「アイスランド」と命名したが、その「氷の島」という名前から、入植希望者が現れなかったそう。


そこで、グリーンランドに上陸した際、今度はたくさんの入植希望者が現れることを願って、「緑の島 グリーンランド」と名付けたとか。うーん、その名前にだまされてこの地に来たら、ショックだろうなぁ……。だって木はほとんどなく、緑といっても、こけとか小さな植物が、短い夏の期間にちょっとあるだけだもんなぁ……。


私が行った6月は夏なので、島の沿岸部は雪はありませんでしたが、そこから少しハイキングで歩いていくと、すぐにスノーキャップに行き当たます。下にリンクしている写真も、そんな一コマ。奥の方に見えるのが、雪が何千年もつもって圧縮された氷の塊・スノーキャップです。この氷の塊がずーーーーーーっっと続いているのかと思うと、別に遭難しているわけでもないのに、なんだか呆然と見入ってしまいました。



閑話休題。なぜ飛行機が赤いのかということに戻ると、この雪と氷の覆われた白い大地に、万一、飛行機が墜落した場合でも、飛行機を見つけやすいように赤にしているのだとか。確かに白ベースの機体だと、空から探しても見つけづらいですな。見た目のステキさも大事だけど、こうした切実な理由も、色を決めるときの理由として重要な要素ですよね。


そんなグリーンランド航空の「安全のしおり」には、寒いところならではのことが載っていました。もし不時着などした場合、多くの飛行機の安全のしおりには、エアジャケットの使い方や、安全姿勢の説明、機外への脱出方法などが説明されていますが、グリーンランド航空では、それ以外に、寒さ対策の方法が説明されていました。



座席シートカバーをとって足に巻いて、凍傷を防げってことでしょうかね。確かに少しでも温かくしないと、救助を待てそうにありません。でもこの安全のしおりのイラスト、顔がかなり簡単だなぁ(笑)。


まあ、機体の色は「万一」のときの備えですが、冬は雪に覆われ、夏になっても陸地は岩や砂など、土地自体にあまりカラフルさがないグリーンランド。そのせいなのか、家や車がめちゃくちゃカラフルです。




どうしてこんな色なのかと、現地の人に聞いてみたのですが、「昔は家は赤ばっかりだったんだけど、最近は、他の色に塗るのが流行ってる。その方がきれいじゃな?」と、おっしゃっていました。雪の中にピンクや黄色、水色の家が建っている風景、なんか絵本に出てくる景色のよう。


こんな、日本とは全然違う風景に出会えたグリーンランド、いやぁ、めちゃくちゃ面白かったです。もちろん涼しいし。日本人は年間600人くらいが訪れるそうです。確かにちょっと遠いけど、白夜や氷山を見たりと、日本にいたら絶対体験できないことばかりだったので、機会があればぜひ行ってみて下さい。


最後に笑い話をひとつ。今回のグリーンランド旅行は、父と夫と3人で行ってきたのですが、これを珍道中といわず何をや、という感じの日々でした。


グリーンランドでは、先住民のイヌイットの人達はもちろん、ヨーロッパから入植した人達の子孫も、アザラシやトナカイなどを食べます(無論、我らもいただきました)。そしてその毛皮は、コートやブーツ、帽子などの防寒具として使われています。


父は町で売られている、加工前の毛皮が欲しくて欲しくてしょうがなかったらしく、旅の始めにトナカイを1枚、終わりにはアザラシを2枚買い込み、それをトランクに詰めようとしたら当然入るわけもなく、トランクを買い増す始末。


グリーンランドは今、白夜で、日が落ちることなく、ずっと明るいままの状態です。ただ夜になるとやはり、日中とは光の強さが違って、すこし陽がやわらぎます。そんななか船で出航し、白夜クルーズにも行きました。偶然、クジラを見ることもできて、大興奮。写真もたくさん撮りました。



父は「俺はどうもデジカメの使い方がよくわからない。だから使い捨てカメラを4つ持ってきた。それも普通のは480円だけど、これは1280円もする一番いいやつだぞ」といって、自慢げに私にそれを見せるのですが……。


その使い捨てカメラには「スーパーナイトモード」なる文字が。「これはな、5メートル先までフラッシュが届くんだぞ!」と自慢げです。


賢いみなさまなら、もうお気づきですよね。そう、グリーンランドは今、白夜。24時間、ずっとフラッシュいらずです。おまけにフィルムの感度も高かったのでしょう。帰国して現像、プリントした父の撮った写真は、かなり粒状感が……。ま、父はそれでも満足げなので、よしとしましょう(苦笑)。


【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp
ふかふか紙に活版印刷した表紙が目印の『デザインのひきだし10』は、全国書店で好評発売中! 他にも『見た目よし! 機能よし! のショッピングバッグコレクション』『グッズづくりのイエローページ』、『デザインのひきだし』バックナンバーも好評発売中
です! 
平日毎日、更新中! デザインのひきだし・制作日記
http://dhikidashi.exblog.jp/

おかだよういち


撮影場所が特定されると困る、そういうシチュエーションもあるとは思いますが、旅行に行った時のスナップ写真などは、友人と共有したり自分で旅を振り返るときでも、場所が記録されていると何かと便利で楽しいものです。


iPhoneや携帯電話にはGPSが搭載されているので、撮った写真にはジオタグ(撮影した場所の緯度・経度)が記録されます。ジオタグが付いた写真は、Webの写真共有サービスにアップすると地図上に表示されます。それの何が楽しいのかは次回にするとして、今回はジオタグを付ける方法をお話します。


iPhoneや携帯オンリーで写真を撮るなら、それで写真にジオタグは付いています。そして、最近発売されたコンデジにもGPSが搭載された機種があります。パナソニックLUMIX DMC-TZ10や、ソニーサイバーショットDSC-HX5Vなどで、リンク先のメーカーのサイトには「GPSが付いたことでこんなに便利!」といった説明が載っています。
http://panasonic.jp/dc/tz10/ LUMIX DMC-TZ10
http://www.sony.jp/cyber-shot/products/DSC-HX5V/
DSC-HX5V


また、ニコンの一眼レフカメラ用にGP-1という純正のGPSユニットがあり、ホットシューに取り付けてケーブルでカメラ本体と接続すると、撮った写真にジオタグが付きます。
http://amzn.to/aL7E8S


では、他のGPSが付いていないデジカメで撮った写真はどうしましょう。という問題を解決するのがGPSロガーです。位置情報と時間を数秒毎に記録し、撮影した写真に時間を元に後から位置情報を埋め込む機械です。ログだけを記録し、パソコンのソフトで写真に位置情報を書き込むものと、メモリーカードを挿入すると中の写真に位置情報を追加してくれるものがあり、代表的なのはソニーのGPS-CS3Kです。
http://www.sony.jp/gps/products/GPS-CS3K/index.html


他にもアマゾンで「GPSロガー」で検索するといろんな機種が出てきますので、興味がある人は調べてみてください。
http://amzn.to/bVUSn3


前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するのはiPhoneをGPSロガーにしてしまおうというアプリ「Geotag Photos(350円)」です。GPS搭載コンデジは3万円弱、GPSロガーは1万円前後なので、iPhoneを持っている人は350円のアプリで同じことが出来るのはかなりお得じゃないでしょうか。


では実際に使ってみましょう。最初に「Setup time on camera」画面で現在の日時が表示されますので、カメラの時間を表示通りに設定します。
http://flic.kr/p/8fT5jD


これでiPhoneとカメラの時間が一致しました。次に「Trip name」に適当な名前を付けます。日付がわかりやすいでしょう。
http://flic.kr/p/8fWkJS


準備ができたら「Rec」ボタンをタップすると位置情報を記録し続けます。iOS4であればマルチプロセスもサポートされているので、他のアプリを立ち上げても裏で動いています。
http://flic.kr/p/8fT5et


後は放っておいて大丈夫です。一眼レフでもコンデジでもがんがん写真を撮ります。


撮影が終わったらログを取るのもStopしてデータをアップロードします。初めての場合のみメールアドレスを送りアカウントを作ります。「Startupload」をタップすると送信開始です。
http://flic.kr/p/8fT5pg


アップロード完了するとログデータにチェックマークが付きます。
http://flic.kr/p/8fT5A6


ログデータをタップするとマップ画面になり動いた軌跡が表示されます。
http://flic.kr/p/8fT5DZ


iPhoneでの操作はここまで。次はパソコンでの作業です。まず、いつものようにメディアカードからパソコンに写真を読み込みます。そして、Geotag Photosのサイトにアクセスしてアカウントにログインします。初めての場合は、先程iPhoneで送ったメールアドレス宛にログイン設定情報が記載されたメールが届くので、アカウントを設定してください。
https://www.geotagphotos.net/en/login.php


ログインしたら、「GPS Export」タブでダウンロードするデータにチェックをいれexportをクリックし任意の場所に保存します。ダウンロード後、「Geotag app」タブに移り「run the application」ボタンをクリックします。
http://flic.kr/p/8fZCGQ


Javaアプリが起動し、先程読み込んだ写真のフォルダを聞いてきますので、フォルダを指定するとサムネイルが表示されます。


すると上部に「click here to start geotagging」と点滅するので、アイコンをクリックすると先程ダウンロードしたログを読み込み、写真に位置情報を埋め込んでいきます。
http://flic.kr/p/8fZCQ3


これで終了。普通のデジカメで撮った写真が位置情報付きの写真になりました。Adobe BridgeなどExifデータが閲覧できるもので見ると、位置情報が追加されているのが確認できます。
http://flic.kr/p/8fZCrL


ちゃんと出来るかどうか確認してからという人は、評価版の「Geotag Photos Lite(無料)」があります。無料版ではログを記録する時に、ボタンを手動でタップが必要で面倒ですが、他は同様に使えます。


地味ですが、かなり使えるアプリですよ! iPhoneユーザーで写真撮るのが好きな人は、このアプリを起動して夏休みの旅行先でいっぱい写真を撮ってみて下さい。きっと旅行から帰ってきた後も楽しいですよ!


【おかだよういち/WEB&DTP デザイナー+フォトグラファー】
http://s-style-arts.info/
okada@s-style-arts.com
<twitter:http://twitter.com/okada41>


ということで、前回はホントに発売日に手に入るのか心配の後書きでしたが、無事iPhone4は発売日に購入できました。問題になっている電波障害ですが、そんなことは気にならないです。そもそもうちはずっと圏外ですから!

齋藤 浩


私のMacに『さいとうひろし』と打ち込んだら再逃避路師と変換された。まさに『わが逃走』。みなさんこんにちは、齋藤浩です。


さて今回は、いつも通りまったく反応のなかった散歩レポートの続きです。茗荷谷界隈を紹介します。


茗荷「谷」ってくらいだから、その名の通り谷である。駅周辺から線路に沿って後楽園方面へ歩く。国道からちょっと細い道へ入ると、風情のある曲がりくねった坂道がつづくのである。


丸ノ内線は地下鉄と名乗りつつもたまに地上に顔を出し、たとえばお茶の水における神田川を渡るシーンや四谷駅侵入シーンなど、いずれもフォトジェニックな情景な訳だが、ここ茗荷谷も例外ではない。


カーブミラーにお稲荷さんの映る高架を渡ったり、



美しい階段のある築堤を走り抜けたり、



さらには名階段『庚申坂』のバックに、一条のアクセントを残してくれたりするのだ。



この庚申坂も実にダイナミックで美しい階段だ。階段の途中に小さな階段があったりして、実に微笑ましい。



と、壁面に謎の配線跡を発見。おそらく階段を灯す照明があったのだろう。現在は味気ないごく普通の街灯が向かい側に立っているのだが、かつてここには帝都東京の名に恥じないモダンなデザ
インのものが取り付けられていたに違いない(と思う)。美しいアールデコ調の照明が設置された姿を想像してみる。



庚申坂を登ったところで国道を茗荷谷駅方面へ戻り、こんどは反対側の湯立坂を下る。ゆるやかにカーブする美しいこの坂はタモリ氏も絶賛。ただ残念なことに道に面して高層マンションが建つらしく、現在工事中であった。


私の場合、でかい建物が建ってくると高低差の感覚が狂う。景観が損なわれるのはもちろんだが、どこが山でどこから谷になっているか的なことを、感覚的に把握しづらくなるのは寂しいなあ。


坂下のロシア料理屋にてピロシキとボルシチ(旨い)を食べた後、千川通りを渡ってすぐの東京大学総合研究博物館小石川分館へ向かう。


今回初めて訪れたのだが、展示もよければ建築もイイ。ちなみに明治9年築の美しい木造建築だ。東大の敷地内にあったものを40年前に移築した後、博物館としてリフォームされたらしい。この移築っぷりとリフォームっぷりが実に良い。当時の良さを見事に残しつつ、博物館として無理なく機能している。



建物は移築されたり修復されたりすると本物っぽさが失われ、レプリカっぽく見えてしまうことが多い。門司港レトロ地区がそんな感じだった。本物なのに、ディズニーランドの建物みたいに見えてしまう。


それに対し、ここは建物の持つ匂いとか、息づかいのようなものがきちんと感じられた。とくに内装がイイ。手を入れるところはきちんと手を入れて、雰囲気を残すべきところはきっちりおさえている。


さて現在ここでは『驚異の部屋展』なる展示が開催中なのだが、これがまたすごい! いわゆる学術標本といわれるモノ、たとえば建築模型や生物の骨格、機械の部品から何だかわかんないモノまで、整然と美しく並んでいる。





しかも素晴らしいのは、それらに一切説明書きがないのだ。ここまで潔いと見る方にしてみれば「これは何に使う道具なんだろう?」とか「これって三葉虫の化石? だよね??」みたいなナゾ解きを楽しめるのだ。解けないナゾも多いけどね。


こういう空間にいるだけで、アイデアがどんどん出てくるから不思議だ。これからデザインのネタに困ったらここに来ようと本気で思う。


ちなみにこの『驚異の部屋展』なるものは常設展で、公開はまだしばらく続くらしい。みなさんも是非。休館日は月火水。入場無料。といったところで、今回は短いけどここらへんで。
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2006chamber.html


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続
けています。(【日刊デジタルクリエイターズ】 No.2839 2010/04/22.Thu.)

齋藤 浩


こんにちは。散歩好きの齋藤です。いい感じに暖かくなってきた今日この頃でございます。こんな日は美しい花を愛でるのもいいのですが、美しい構造物を鑑賞するのもまた一興。


てな訳で、先日、護国寺〜茗荷谷〜本郷と散歩してきまして、今日は護国寺近辺の魅力を語ろうと思います。


前も書いたかと思うのですが、私は子供の頃、一般的に「美しい」とされているものをそのまましいと思うことに抵抗がありました。例えば「花は美しい」。だから花を描きましょう、みたいな考えにものすごい抵抗を感じていたのです。それよりも、もっと普通にそのへんに落ちてる石ころを拾ってきて、美しいアングルを探す方がよっぽど楽しいじゃないか!


まあそんなひねくれ幼児の私は、道ばたに落ちてる釘やらボルトやら木の根っこ等を収集し、気に入ったものを棚に飾ったり祖父・三郎にプレゼントしたりしていた訳ですが、まさかそれが40過ぎても続いているとはね。カメラという文明の利器を手にしたので、さすがに最近はあまり拾ったりはしないけど、同じような感覚でシャッターを切っているような気がするのです。


さて、今回の散歩のプランニングに大変重宝した文献は、以下の3冊です。
『タモリのTOKYO坂道美学入門』講談社 2004
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4063527239/dgcrcom-22/
『東京の階段─都市の「異空間」階段の楽しみ方』日本文芸社 2007
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4537255455/dgcrcom-22/
『東京ぶらり暗渠探検』洋泉社 2010
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/486248509X/dgcrcom-22/
いずれも超マニアック視点の東京案内と言えましょう。


こういう狭く深い本が普通に出版される世の中って、さすが21世紀だなーと思う。ネット社会ならではのマーケティングってやつ? 昨今の工場や廃墟ブームにしてもそうですが、まさかこんな偏った趣味の人がこうもたくさんいたとは! と心強くもあり、気味悪くも! あります。


かく言う私もその一人であります。こういった本のおかげで、普通に暮らしてる東京が知らない国のようにも見えてきます。まさに、拾ってきた石ころの美しいアングルを探す旅が毎日味わえるのです。


しかし、東京は新陳代謝の激しい都市です。本に出ていたのでいつか行こうと思っているうちに、土地は削られタワーマンションが建ち、前日の面影すらなくなることもよくあります。なので、思い立ったら出かけちゃうことをおすすめします。


某月某日午前11時、同じような趣味の若者及びシジュー代計7人が揃い、だらだらと出発。お茶の水女子大の裏手から豊島ヶ岡御陵の東を北上する。


このあたりは昔、水窪川という川が流れていた。いまは暗渠化されているその川に沿って歩くと、ちょうど尾根に相当するところが春日通で、そこから見下ろした谷を歩いているのがよくわかる。


という訳で、この周辺には美しい坂道や階段道がたくさんあるのだ。傾斜地は平地と違って区画整理がされにくい。なので、昔ながらの風情のある景色や建物が鑑賞できることが多い。とくにここ大塚5丁目あたりは、いわゆるワビサビ密集地と言えましょう。


なお、今回ここで紹介する階段は全て春日通から水窪川暗渠にかけての傾斜上にある。さっそく階段その1発見。



おそらく数年前に改修工事が成されたらしく、階段そのものは白く新しいコンクリートになっている。


しかし、周囲の家並みは大変風情があり、とくに頂上から見下ろす風景は古き良き昭和の東京だ。



数年前までは奥の駐車場にも昭和的木造建築が建っていたのだろうか。新陳代謝の激しい東京という街において、10年前の景色を想像することはなかなか難しいが、このあたりはまだそういった楽しみも残されている。


さらに進むと、そのテの本でも大きく取り上げられている名階段がある。細い路地の突き当たりから、突然扇型に広がる急階段がそれだ。



この階段の美しさを伝えるのは難しい。複雑な構造ゆえベストなポジションがみつからず、撮影しても平面的に見えてしまう場合が多いし、その立体的な美しさを伝えたくても、カメラのフレームで切り取った途端、ツマラナイ縞模様になってしまうのだ。


そんな訳で、ベストな一枚を撮影すべく、季節や時間帯を変えてこれからも見に行きたいと思っている。なお、この場所だけでなく、ここら一帯は限りなく私道に近い感じの住宅密集地である。訪れる際は、近隣住民の方の迷惑にならないよう、充分気をつけたい。


さらに暗渠を進むと、ほどよく曲がりくねった階段がある。頂上から見下ろせば、なんとなく尾道の風景をイメージしてしまう。



屋根の向こうに尾道水道を幻視しつつ野良猫と戯れる。と、階段の途中に素敵な構造物を発見。



どうやらコンクリート塀のちょうど真下に下水の蓋がきちゃったのかな? 蓋を機能させつつ、排水との両立を図った結果がこの仕組みなのだろう。私はこういった、現場合わせ的ささやかな工夫が大好きなのである。なんでもかんでもユニット化され、同じ形の家がコピペされたような新興住宅地にはこのような物件はまず存在しない。


気にせず通り過ぎてしまいそうな、これらのちょっとした“でっぱり”なども、構造から機能を読み解く楽しさを与えてくれる先生的存在なのだ。


そして、次に現れるのが昭和な木造建築にはさまれたこの階段。



うーん、美しい。とくに道路と接するところで幅がせまくなってるところになんともいえない美を感じる。


このような構造になったには、おそらくちゃんとした理由があるのだ。この日は駆け足ツアーだったので、再び訪れたときにはその理由を探ってみたい。ちなみにこの近所のいい感じの壁や塀を切り取るような感覚で撮影すると、抽象画のような絵ができる。



このような“絵”を発見する楽しさも散歩の楽しみである。水窪川の暗渠が左にくいっと曲がるあたりで、驚くほど急な階段を発見。



住宅の玄関に通じる階段だと思うのだが、とにかくハシゴ並みに急なのだ。ここまで来るともはや『機能する芸術』。そのインパクトたるや、ヘンリー・ムーアやイサム・ノグチの彫刻作品のパワーを越えると言っても過言ではない。


モノを創り出す際、「芸術を作る」と思った時点で芸術には至らぬことが決定付けられるのかもしれない。真の芸術とは無意識の、無作為の中でつくられた作為なのではないかと思うのである。


というところで、今回はこれにて。今後タイミングを見つつ、茗荷谷編、本郷編を書いていこうと思います。んではみなさま、また次回。(日刊デジクリNo.2829 2010/04/08)


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poographics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

上原ゼンジ


「街道リぼん」で写真展をやります。今週末の6月25日(金)から27日(日)までの3日間。元々この「街道リぼん」の会期というのは変則的で、金土日の3日間を2回、計6日間やるというのが基本単位になっている。働きながら写真展をやる人も多いし、凝縮してやるという感じですね。


元々「街道」は尾仲浩二さんが運営していたギャラリーだけど、今年からは若い女性写真家、松谷友美さんと佐藤春菜さんが引き継いで運営している。この辺りの話は、このギャラリーが生まれた頃にちょっと書かせて貰った。そして今年の春にお二人から企画展の話をいただき、ありがたくお引き受けすることにした。会期は短いけど、毎日顔を出すつもりなので、私のツラを見てみたいとか、話をしてみたいという方はぜひお越し下さい。


尾仲さんとの付き合いは1986年から。私が「FOTO SESSION’86」という写真のグループに参加して、月に一度森山大道さんに写真を見ていただいていた時に、先輩としてほぼ毎回その例会に現れていた。ちなみにもうお一方、顔を出していた先輩が山内道雄さんだ。


私はそのFOTO SESSION’86に参加し始めて一年もたたないうちに、当時勤めていた本の雑誌社を辞めてしまったんだけど、それはもう少し写真を撮る時間が欲しくなってしまったのと、森山さんがあまりにもカッコ良かったからだ。写真で食っていこうとかいう話ではまったくない。当時は景気も悪くなかったから、まあ何とかなるだろうという、ぐらいの気持ちで退職してしまい、今日に至る、というわけだ。


今、尾仲さんが「デイズフォト通信」で「あの頃、東京で…」というエッセイの連載をしているのだが、ちょうど当時の話がネタになっていて面白い。森山さんや尾仲さんが、自分自身のギャラリーを立ち上げた頃の話だ。尾仲さんと交流はあったものの、当時の裏事情も分かり、興味深く読ませて貰っている。そして改めて当時のことを思い返してみると、かなり面白い時期に、ディープな現場に居合わせたのかな、という気がしてきた。


私は1987年になってすぐに会社を辞めたのだが、その年に森山さんは渋谷に自身のギャラリーである「room801 森山写真研究室」を作った。そして、そのギャラリーの内装工事を仕切ったのが尾仲さんだ。CAMPやFOTO SESSION関係の人間が手伝いに集まったのだが、私もペンキ塗りの日に手伝いに行った。


その時、工事で出たゴミを入れるための袋が余ったので、その袋を森山さんから譲り受け、しばらくの間森山大道モデルのコインランドリー袋として愛用していた。いや、ただ土のうを作ったりする時に使う袋だし、森山さんが買ってきたもんでも何でもないんだけど、なんか森山さんの所から貰ってきたというのが嬉しかった。


同じ年に、尾仲さんが西新宿の成子坂下にギャラリー「街道」を作った。そして山内道雄さんと瀬戸正人さんが四谷四丁目に「Place M」を作った。自主ギャラリーというは、それ以前からもあったけれど、その後の影響のことなどを考えると「room801」「街道」「Place M」が生まれた1987年というのは、日本の写真史の中でも重要な年だったんじゃないかと思う。写真評論家には、ぜひこの辺の話をまとめておいて欲しいなあ。


自主ギャラリーというのは、写真家個人や写真家グループが主体となって運営しているギャラリーだけど、メーカー系のギャラリーと違って、自分が発表したい写真を発表したい時期に公開できるというメリットがある。メーカー系のギャラリーだと、審査があったり、ずうっと先の話だったりするでしょ。


そんな自主ギャラリーでは夕方になるとアルコールが登場する。私の周りの写真家というのは、シャイな人が多いけど、夕方になり、アルコールが入るにつれ饒舌になっていく。そして、昼間はおとなしかった人達のテンションがだんだんと上がってゆき、翌朝まで写真について語り合うという状況もよくあった。


写真集専門の出版社であり、書店であり、ギャラリーである蒼穹舎の代表である大田通貴さんが道を誤ったのもこの年で、たまたま初めて行った「room801」で酒宴が始まり、そのまま朝まで写真について語り合う、という洗礼を受けたことが、その後の人生を変えたようだ。


当時はただ写真が好きで、ギャラリーめぐりをしていた青年だったのに、新宿御苑の蒼穹舎で写真集に囲まれている大田さんを見ると、あの頃、あの場のエネルギーって、何か凄かったんだなあと感じさせる。


・デイズフォト通信
http://www.daysphotopress.com/
・蒼穹舎
http://www.sokyusha.com/


今回の展示は「街道リぼん」の「大部屋」という名の四畳半のスペースで行われる。あんまり大きな花とかいただいても飾れないから、花はけっこうですよ。ドン・キホーテの「具だくさんラー油」はいいかもしれません。って、ギャラリーじゃ、食えないか。じゃあ、スイーツがいいかな。


ネタは「宙玉レンズ」「手ぶれ増幅装置」「歪みガラスの向こうの世界」あたりをやろうと思っている。って、もう明後日だというのに何も準備ができていない。搬入の当日はワールドカップの日本対デンマーク戦もあるしけっこう危険だな。


写真展の会場には、蛇腹レンズや宙玉レンズなんかの工作物も持っていくつもり。宙玉レンズは販売もします。お客さんが少なければ、蛇腹の折り方教室もやりたいな。まあ、いろいろサービスしますんで、ぜひ、お越し下さい!


◇上原ゼンジ写真展「手ぶれ増幅装置、その他の実験」
会期:6月25日(金)26日(土)27日(日)13:00〜19:00
会場:GALLERY街道リぼん 
http://www.zenji.info/news/ribbon.html


◇宙玉レンズの販売について
ようやく供給が追いついてきました。
http://www.zenji.info/cn21/pg243.html


【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
http://www.zenji.info/
http://twitter.com/Zenji_Uehara

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