●太田直子「字幕屋に『、』はない」を読む(イカロス出版、2013)。フリーランスの字幕屋30年近いベテランが、映画の日本語字幕制作の哀しくもおかしい舞台裏を描いたエッセイで、あまり知る人のない職業に興味津々である。嘆き節、怨み節の軽妙な文体は擬態で、言葉を扱うプロとして誠心誠意仕事に取り組んでいる姿が見える。絶妙のパロディ系の見出しは、おもしろいにもほどがある。「紙々の黄昏」「気遣いピエロ」「シスター・ウォーズ 経刻の逆襲」「次はどっちに出ている」「原稿に手を出すな」とか。
タイトルの意味は「映画字幕に句読点はない」ということ。知らなかった。気がつかなかった。映画字幕では句読点の代わりにスペースを用いる。「。」は一字分、「、」は半字分だ。すぐに画面から消えてしまう字幕は一瞬の誤読が命取りなので、それを防止するテクニックだ。ところが、字幕から句読点が排除された理由は、はっきりしないという。この本の正しいタイトルは、「字幕屋に『、』『。』はない」ではないか。まあいいけど。
映画のセリフひとつひとつの長さを計測しリスト化する、スポッティングというプロの仕事がある。このリストがないと字幕翻訳は始まらない。字幕にはセリフ1秒=4文字という制限があるからだ。例えば、I’m not lying. というセリフはリストでは1秒以下、3〜4文字にしなければならない。直訳の「嘘じゃないわ」では2文字オーバー、そこでどうするか。You didn’t know? 「知らなかった?」も同様にオーバー。そこでどうするか。解答はあとで。
「厳しい字数制限のもと、いかに老若男女すべての観客に映画を楽しんでもらうかを追求しているので、辞書にある訳語に縛られていたら話になりません。原文メッセージの裏の裏まで深読みし、さらに場を読み表情を読みます。そのセリフを己の血肉と化すくらいのプロセスが必要です」
お客が知らない言葉は使えない。使ってはいけない言葉がある。移り変わる禁止用語がある。ひらがなかカタカナか。数字の表記、単位の換算で悩む。言葉選びの苦悩が続く。斎藤美奈子が「最近の若い人は比喩と伏線が読めなくなっているそうだ」と書いたのが10年以上前だ。これは本当らしい。大変な世の中になってしまった。字幕屋の苦労はいかばかりか。
翻訳全般に言えることだが、字幕にマニュアルはない。「字幕に正解があってたまるか。永遠にテメーの頭で悩み続けるしかねーんだよ」。筆者の参加する映画翻訳家協会は会員20名、異様に平均年齢が高く、なんと最年少が48歳とか。大丈夫か、この業界。がんばってほしい。サルでもわかる字幕にすればいい、はずがない。ところで解答は「本当よ」と「初耳?」。さすがだ。(柴田)
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太田直子「字幕屋に『、』はない」
●iOSの英単語学習アプリ『えいぽんたん!』が面白い。スマホゲームのハマリ要素がこのアプリにはある。出題される問題はキクタンシリーズのTOEIC350〜990点レベル。
最初に実力テストがあり、出題レベルが確定する。レベルは41に分かれており、最高がS6。レベルに応じているため、ほとんど間違うことなく、すいすいステージクリアできる。クリアするとおやつがもらえ、架空の生徒たち(キャラ)に与えることができる。どうも自分は先生らしい。
生徒たちは食べたおやつの栄養単位「tan」の数で勉強が進み(アニメーションのみ)、一年生から三年生にまでなり、卒業させることができる。卒業アルバムまである。
何時間でも勉強できるかというとそうではなく、問題にトライする際に体力ゲージが減り、ゼロになったらパン類を購入するか、回復するまで待つことになる。10分で1回復。レベルが上がると体力上限が上がるため、あそ……勉強する時間は増やせる。もしかしたら高いステージだと消費体力が多くてトータル時間は同じになるかもしれない。ステージクリアごとに、今の英語力は○○ぐらい、とイラストつきで表示される。続く。 (hammer.mule)
http://eipontan.smacolo.jp/ えいぽんたん!
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聞いて覚える英単語 キクタン TOEIC Test Score 600
https://twitter.com/nagomix/media
見知らぬ方のTwitterに画像があったわ。私はこのレベルに到達していません……