●究極の散歩本を読んだ。300ページを超える、久住昌之の「野武士、西へ」だ(2013、集英社)。この本は、「小説すばる」の連載を大幅に加筆・修正したものだ。東京から大阪まで、じつに2年間で25回を要した「大人の散歩」の記録。歩いた道で見えたもの、食べたもの、出会った人たち、そのとき考えたことなどが、飾り気なく淡々と語られるだけの、たわいないともいえる文章だが読んでいてあきることがない。この作家の芸なのだろう。
散歩の達人・久住は「近年、散歩はブームのようでガイド本や専門誌も出ているが、テレビで見て、ガイド読んで、ネットで検索して下調べして、わざわざでかけるのが散歩か? それは観光じゃないか、旅行じゃないか。散歩なんて、頭を使わずにその辺をぶらっとする、無意味なそぞろ歩きだろう」とオカンムリ。仲間内で「俺はどうにも気に食わない。大阪ぐらいまでぶらぶら散歩しないと腹の虫がおさまらない」と発言したら、たちまち賛同を得て、東京から大阪まで大人の散歩という話で盛り上がった。
ちょっとずつ行く。行ける所まで行って、電車で帰って来る。新幹線で帰って来る。次はまた新幹線でそこまで行って、続きを散歩する。毎回、夜になったら最寄りの駅探して帰って来る。電車に遅れそうになったらタクシーもよし。宿泊してもよし。大人だからズルくてもよし。とにかく線がつながればよし。
なんという理想的な行き当たりばったりの贅沢な大型散歩だ。しかし、これは突飛なアイデアではない。旅好きなら誰でも考えることだ。でも、かなりの日数とお金がかかるから躊躇する。予算もとりづらい世知辛いご時世、こんな無謀な企画を出したら「小説すばる」がOKしてくれた。うらやまし過ぎるぞ。
持ち物は財布とケータイ。ケータイは仕事を持つ大人だからやむなし。ただしGPSや地図などナビゲーション機能は絶対使わない。小型デジカメとメモ帳とボールペン、ティッシュ。横浜から海沿いに歩いて行けば、名古屋くらいまではなにも見ないでも行ける。藤沢から東海道を逆走して大船へという2時間ロスの大失敗も「散歩に無駄足無し!」だからいいのだ。
名古屋から先は下調べしないと無理で、亀山バイパスで翻弄されたり、伊賀に向かって甲賀に着いたり。ついに柘植、月ヶ瀬あたりではiPhoneに頼りまくりで、「気の小さい散歩者。どこが野武士だ」と自分を恥じる。泣き言も入る。そのへんの格好悪さも好感が持てる。わたしより一回りくらい歳下のこのおじさんのこと、気になるな。本が出たらまた読むんだろうなあ。(柴田)
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久住昌之「野武士、西へ 二年間の散歩」
●続き。やっと繋がったと思えば、携帯は遠くに置いてあり、耳も遠くなりつつあるので速報のことは知らないと。決壊するとしても曲がった場所からだ、遠出して川を見てくるわとの返事。危機感のなさにがっくり。
いや私もきっと勧告では動かないだろう。市は責任回避のため、余裕を持って連絡してくるはずだし、指示になってからやっと腰を上げる感じかな。避難場所まで徒歩3〜5分だし。でも川を見に行っちゃいけないでしょう!
うちにはソフトバンクiPhone二台とドコモ携帯が一台あったが、速報には時間差があった。私のiPhoneが一番最初、次にもう一つのiPhone、ドコモが最後に通知された。10秒差もなかったようだったが、同時に鳴らないんだなぁと、ふと思ったり。
伯母の言った通り、昼には雨は上がり、とても涼しい日になった。川を見に行った父は、近年まれに見る水位だったと言っていた……。緊急速報についてアレコレ言われているけれど、少なくとも「私には」緊張感あって意味のあるものでしたよ〜。(hammer.mule)